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健康とは、体内のバランスが整っているホメオスタシスを維持すること

2015.01.30 | インタビュー
奴久妻 智代子 先生

がんをはじめ、さまざまな生活習慣病には、日々の予防に勝る治療法はないといわれています。
そこで、臨床ゲノム医療学会認定のゲノムドクターとして、臨床の現場で遺伝子の研究に携わっていらっしゃる奴久妻智代子先生に、最先端の予防医療情報についてお話をうかがいました。

ホメオスタシス(恒常性)とは

簡単にいうと、生物の内部環境をある一定の範囲内に保つ働きのことです。病気との関わりでいうと、
免疫系、内分泌(ホルモン)系、自律神経系、それぞれがバランスのよい状態に保たれていることが、健康であるということ。このバランスが崩れてしまうと、生活習慣病をはじめ、がん、パーキンソン病、自己免疫疾患など、さまざまな疾患となって人間の体を蝕んでいくことになります。

免疫力を上げる最も効果的な方法は基礎体温を上げること

生物の体に備わっている「免疫」という機能の基本は、自己と非自己を見分け、非自己を排除することにあります。この免疫システムが正常に働いていれば、多くの病気を免れることができますが、では免疫力をより高めるにはどうすればよいでしょうか?

生体にとって最も強力で基本的な防衛反応は、発熱です。生体防衛反応とは、体内に細菌などの異物が侵入した際に生体が示す防御反応のことで、発熱によって免疫細胞を刺激・活性化し、血流をアップし、熱ショックタンパク質と呼ばれるストレス応答を担う物質を自ら産生し、侵入者に対抗して自己を守る力を高めます。この発熱反応を人工的に再現し、熱をうまくコントロールすることができれば、外からの攻撃に打ち勝つ体が保てるということになります。

人間は体内で作っているエネルギーの 70%以上を体温の維持に使っているといわれています。胎内にいる赤ちゃんの体温は約 38度。一つの卵子から胎児になるまでに必要な細胞を何十兆個にまで増殖させるためには、膨大なエネルギーを要しますが、そのためには高い体温を維持する必要があります。

しかし、過度なダイエットによる栄養不足や貧血による酸素不足で十分なエネルギーが作れず、その結果、低体温をきたす例も少なくありません。低体温では血流が悪くなるため、体の隅々にまで栄養や酸素を運ぶ力も衰えて、悪循環に陥ります。

また、最近は母親よりも体温の低い子どもが増えているのも深刻な問題です。エネルギーの製造工場であるミトコンドリアは、筋肉の細胞中にもたくさん存在していますが、塾での勉強やゲーム遊びで忙しい今の子ども達は、筋肉を使う機会が少なく、ミトコンドリアも元気をなくしてエネルギーが不足し、体温が上がらない..。

これでは、いざという時、体が病気と闘えるはずがありませんね。

未病の段階で発見するゲノム診断の可能性

私は以前ウイルスの研究に携わっていました。ウイルス感染に対する免疫反応とがんに対する免疫反応とは共通点が多く、ウイルスに感染した細胞は熱に弱いことはよく知られていますが、これはがん細胞にもいえることです。さらに、ウイルスの遺伝子が変異を繰り返すように、がん細胞も遺伝子の異常を積み重ねます。ウイルスと熱、がんと熱、そして遺伝子の関係はとても興味深い分野です。

一つの異常細胞が、免疫の攻撃を回避しながら “がん” へと成長していく過程では、低酸素や低体温などの劣悪な環境に対応して、普段は眠っているある遺伝子群に過剰な発現が見られるようになります。がんに関連したこれら遺伝子群の発現を検査することにより、まだ画像診断でも発見できないがんの芽を捉えよう、というのがゲノム診断です。

どんな病気も「予防に勝る治療はない」といわれていますが、未病の状態で病気の芽を摘むことが医療の理想です。がんこそ、発症前のリスク段階で発見できれば、より理想的な対策が打てるはずです。

現在、47 種類のがん関連遺伝子の発現を調べて、それぞれの組合わせに対応する 16 種類のがん種について、超早期のがんリスク判定ができるようになりました。ゲノム診断では、がんを抑制する仕組みに異常がある場合にも、遺伝子レベルでこれを知ることができます。

がんのリスクを発見したら? 行うべき未病ケアとは?

では、将来的ながんのリスクがわかったらどうすればよいのか? 画像診断で対象となるがんが発見できないと、従来の医療では切り取るわけにもいかない、放射線も照射できない、副作用のある抗がん剤も使えない、というのが現状です。そんな時に、

1. 生活習慣指導
2. ビタミン D や高濃度ビタミン C などのサプリメント投与
3. 鍼灸やアーユルヴェーダなどの東洋医学的アプローチ
4. 全身温熱療法

などの補完代替療法が有用になるわけですが、中でも全身温熱療法は、精密に温度管理された温浴の熱エネルギーと体内の血流によって深部体温を上げ、ミトコンドリアによる好気的エネルギー代謝を促進し、免疫力を高めることで、上記1~3の作用をパワフルにサポートします。

8回を1クールとするこの全身温熱療法で、数種類のがん関連遺伝子に過剰発現が見られたケースで、発現が半減したというデータもあります。

全身温熱療法では、がん関連遺伝子が起き出すに至った細胞環境に働きかけるため、超早期の段階で手を打つことが可能になると考えられています。

体温を上げるには、さまざまな方法がありますが、最も効率よく、しかも皮膚に火傷や褥瘡(じょくそう)などの副作用がなく、安全に全身を温めることができるのは、温水だと思います。

例えば、遠赤外線ドームと温水で同じ時間加温して、深部体温の指標として直腸温を測ったところ、温水のほうが遠赤外線に比べて、約4倍の体温上昇効果が得られました。

日常生活では、お風呂でゆっくり全身を温め、血管を開いて血の巡りを良くすることが、全身温熱療法の効果的な取り入れ方です。

ただし、いきなり熱いお風呂に入り、やみくもに体温を上げればいいというものではありません。治療を目的として医療機関で全身温熱療法を行う場合には、深部体温を平熱から2度上げた時、血流は3~5倍、多い人では 10 倍にもなりますが、体への負荷を最小限にし、体温の上昇に沿って湯温を徐々に上げていく必要があります。高い湯温で急速に温めようとすると、血管が急激に収縮し、逆に血流は悪くなってしまいます。その後一気に血管が緩むことで血圧の差が大きくなり、入浴事故につながりかねません。特に持病のある方は医師の指示に従い、家庭においては無理のない入浴を心がけましょう。

これからの病気治療に全身温熱療法の可能性

全身温熱療法は、免疫系だけでなく、自律神経系、内分泌系を総合的に活性化するため、がん治療を含め、ホメオスタシスの歪みからくるさまざまな分野の疾患に対して幅広い可能性を秘めています。

注目すべきは、熱などの一時的なストレスを与えた時に発現する前述のストレス応答物質、熱ショックタンパク質の存在です。熱ショックタンパク質は、他のタンパク質の合成から分解までを介助する働きを備え、種類によっては、がん細胞やウイルス感染細胞表面に非自己の旗を立て、免疫細胞から認識されやすくする免疫増強作用を備えます。これらの作用が、細胞を正常な状態へ導くお手伝いをしています。

また、筋肉の疲労を軽くし、骨を作り、細胞の修復を図る、別名若返りホルモンとも呼ばれる成長ホルモンはじめ、いくつかの脳下垂体ホルモンの分泌が促されることも大きな特徴です。傷ついた組織の修復再生を早めることは、治療にとっても有効であるといえるでしょう。

このように、未病ケアにおいては、体を” 正しく” 温めることが何より基本であ り、最善の策であることはいうまでもありません。

奴久妻 智代子 先生

東京ソアラクリニック
ゲノムドクター
医学博士